このような認知パターンを逆手にとった治療法があります。それは、認知行動療法と呼ばれています。これは、具体的な行動練習を通して成功体験をすることによって、"行動をおこせば報われる"という新たな認知パターンを構築していく療法です。興味深いことに、うつ病患者さんの"過度の一般化"は失敗体験だけでなく、成功体験についてもみられるため、この療法によって病状がぐんぐんと改善していくことが知られています。 "報われない"状況がうつ病を発病させるのと表裏をなすように、"報われる"体験がうつ病の改善に重要な役割を果たしているのです。
"対象喪失"体験の影響
そのほかに、うつ病になりやすい状況として、"対象喪失体験"があります。この場合の"対象"とは、親・配偶者・恋人などの重要な人物だけでなく、所有物であったり、心理的な理想やアイデンティティ(自己の存在感)であったりします。たとえば、健康なからだ、家や資産、地位や名誉などもそれにあたります。うつ病患者さんのなかには、発病に先立って、身近な人との死別や離別、仲たがい、転居、転勤などの"対象喪失"を体験しているケースがしばしば見られます。結婚や昇進など、本来ならば喜ばしいこともうつ病の引き金になるのは、これらの体験がある種の"対象喪失"でもあるからです。たとえば、結婚によって今までの"子ども"という立場や慣れ親しんだ住まいなどを失いますし、昇進も今までの"上司"を失い、自分自身の"部下"という役割や立場・仕事内容を失う体験といえるのです。 "対象喪失"を体験したならば、その後しばらくは忙しさにまぎれずに、何事も"八分め"と心得ておくとよいようです。自分の気持ちを誰かに話したり、ぼんやりと考えたりする時間をつくってください。特に、重要な誰かをなくしたり、別れを余儀なくされたりした後や、身体や生活上のハンデを負った後は、感情を無理に抑えずに十分に悲しむことが大切です。 "対象喪失"を体験すると、単純に悲しいだけでなく複雑な感情に襲われるのが常です。やりばのない怒り、猜疑心、実感のなさといった自分の感情に戸惑って、これらの感情を心の中に押し込めてしまいたくなるかもしれません。けれど、押し込めた感情は心の中で消えないので、思わぬときに思わぬ形で噴出してくることがあります。うつ病もその一つなのです。
